あのサンドイッチ
2014年の御嶽山噴火のことを思い出している。
噴火の一日か二日後の朝のことだ。NHKのニュースで、行方不明になった方のご家庭へと取材が入っていた。
奥さんが冷蔵庫からサンドイッチを取り出す。たまごときゅうりのきれいなサンドイッチだった。
「山に行く日、夫は早起きをしてサンドイッチを作っていました。半分は自分で持って行って、半分は私と娘に」
奥さんはその日捜索活動へと加わるのだという。朝のニュースはそれまでだった。
夜、またニュースを見る。朝の取材の続きがあり、残念ながら旦那さんは亡くなっていた。汚れたリュックサックから、奥さんはタッパーに入ったサンドイッチを取り出した。サンドイッチは縮んでカチカチになっていたけれど、きれいだった。
「食べれば良かったのに、食べれば良かったのに」
奥さんはタッパーを両手で持ちながら泣き崩れた。それが今でも忘れられない。
災害というもののむきだしの断面を明らかにする、あれはすごい報道だった。
ご遺族はいまどうされているのだろうか。心安らかにお過ごしであることを願う。